ヒメアノ〜ル

2016/05/31 MOVIX堺
6/10

「どうでしたか?」

「んー とっても面白いし
よく出来てたとは思う」

「へぇー なんか
含みある物言いですね
手放しではない と?」

「だね
あなたはどうだったのよ?」

「私はかなり面白かったです
前半はかなり笑わせてもらったし
後半はすごく怖かったし
そんでもって
最後なんか泣かせてまでくれたんで」

「三拍子揃ってましたと」

「その通り
料金分モト取ったな みたいな」

「確かに
それは監督なりプロデューサーの
狙い通りだと思う」

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「それぞれのキャラだって
相当いい線いってたと思いますけど」

「1番気になったキャラとかある?」

「んー やっぱり森田(森田剛)でしょ
歳取ってもV6現役で
あそこまでやってくれると
思わず拍手したくもなりますよ」

原作読んでないから判んないんだけど
あのキャラ 彼にドンピシャだったね」

「そうそう
こういう人いるわぁ みたいな
髪染めててキャシャでそこそこ男前で
自分のルールで動いてるんで
不思議と余裕を感じさせてしまうタイプ」

「あぁ 上手いこと言うねぇ」

「アザっす」

「その挨拶
森田ならまず言わなさそうだ」

「言いそうで言わない」

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「言ってみりゃ
いいキャスティングなんで
役者さんたちも演じにくいとか
そういうのは無かったような気がしたな
今までやってきた延長線上で
更なる飛躍を試みてるような
やってて気持ち良さそうだなぁ
っていう印象
出演者の方々からは受けました」

「安藤(ムロツヨシ)なんて典型的だよね」

「そうだね
「勇者ヨシヒコ」シリーズの
メレブ見てたら そんな違和感ないし
ま あれはツッコミ役だけど」

「自分より上のボケがいるもんだから
仕方なくツッコまざるを得ない役だね
今回は
彼よりボケた奴って基本現れないから
無駄な労力を廃してる分
逆に難しかったんじゃなかろうか」

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「岡田(濱田岳)はなんか
いつも通りというか
いい意味でも悪い意味でも
安定してるよね」

「それを如何に
そうでない方向へズラすかが
今回の映画のメインと言ってもいい主題
じゃなかったかと思うんだけど」

「えええ ちょっとそれもうちょっと
詳しく聞かせてよ」

「うん
観てる間ずっと感じてたのよ
「ズラす」「ズレてる」「ズラされてる」
なんていうキーワードを
総括すりゃ「ズレ」なんだけど
簡単に言っちゃうと
「あるある」ネタから少しズラせたキャラ
としての主要キャスト4人だと思ったわけ

将来に何の展望も見出せず
仕事をうまくこなせてもいない岡田なら
彼の服のセンスね
どこやらのファッション雑誌で
パクったような色使い
着てるもので主張しなきゃ
何も残されてないっていう設定
安藤とのコントラストで
その効果が余計に目立つっていう

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で その安藤も
我々が言う典型的「キモオタ」か
と思いきや
案外そうでもなく っていうね
というのは
二次元アニメとかへの執着とかが
描かれないんだよ 敢えて
散らかった部屋にあったのはチェーンソー
受け答えが終始あんな風なのに
生身の女に惚れちゃってるのよ

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森田だってそう
カフェに来たのは今日が初めて
だなんて嘘が通用しようがしまいが
彼にとってそれは
二次的なものでしかない
まずは その場その場をしのげれば
後のことはどんどん後回しにして行く
っていうか
後回しにさえなってないと思うけど
多分ぜーんぶ放ったらかしだね
あの感じだと

面白い描写だったのが
ベンチで喫煙してるのを
見回りのおじいちゃんに
注意された時のやりとり
あれはちょっと唸ったね
執拗に注意して来るじいちゃんの言葉
に対する答が 横にズレちゃってたでしょ
「今は 吸ってないから」
言われてすぐに退散すりゃいいものを
じいちゃんもじいちゃんで
しつこく何度も同じこと言うもんだから
徐々に画面内を
不穏な空気が支配し始めるっていう
確かな演出力を持つ者にしか許されない
ハイレベルなホラーに必ず登場する
「序章」ですよねあれって」

「うんうん 結局最後まで
感情的な態度に出なかったっていうのも
逆にかなり不気味だった」

「ああいう場面に遭遇して
感情的に言い返すってのが
ごく一般的な反応だと思うの
じいちゃん相手なのに
大声でがなり立てたりさ
でも彼は淡々と述べ続けるだけ
述べるの次は 声を荒げるじゃないのね
述べるを経ると 次は 殺す なんですよ
その恐怖感を見事に描写してた」

「うわぁ もしかして
ベタ褒めじゃないっすか」

「正直 途中までは
ベタ褒めしたい気持ちでいっぱいだった」

「途中まで? と言うと?」

「まぁそれについては後々話すとして
そんでもって
1番気になったキャラっていうのが
実は ユカ(佐津川愛美)なのね」

「それはまたどうして?」

「ああいう女性 どう?」

「どう?って言われても
ああいう子
カフェにいて喋りかけてくれて
なんなら仲良くなれたら
かなり嬉しいかな とか?」

「うん 一見するとそういう風だけど
そういう演出のされ方は
決してされてないと思うのよ
初っ端さ 店員として登場して
間近の男性客に
「お水どうですか?」って動くじゃない
あの瞬間 ビビッ!ときたのよ
こいつ ちょっとズレてやがる って」

「何が? どういう風に?」

「ぎこちなさ
水の提供を断られることによって
ますます挙動にズレのバイアスが
かかってたのよ
この女性 ちょっとヤバめかも
って一瞬で解らせちゃう凄み
ティッシュ配りが下手な女の子
たまに見かけるんだけど
あの感じに似てるかもしんない
どうあっても
相手の動きを止めてしまって
不快な思いをさせそうになってるってのを
実のところ自覚しちゃってる
そのちょっとした諦念
少なくともあそこだけで
この女「ヒロイン」とはちょっと違うな
って思えるのね
てことは こういう瞬発力によって
物語をどんどん先へ進めやすくする
っていう効果も生み出してるってことよ」

「はぁーなるへそ」

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「案の定 そういう
ちょっと横ズレしたキャラで
付き合い始めるじゃない
岡田が億劫だっていうのもあるけど
自ら指さして告っちゃうんだよ
岡田みたいなのがタイプだっていうのも
微妙なセンスだし
経験人数聞かれて
おそらく少なめに見積もって10人って
普通チェリー相手に言わないだろうし」

「いくらなんでも5人にしとくよね
あの歳のあの顔であの数字出されたら
ちょっと引いちゃうわ」

「そう 顔だよ スゲぇーのは
可愛いのに なんかビミョーだろ?」

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「好みの問題かもしれないけど
自分もそう思った
広瀬すずとかから出てる
キョーレツな美人オーラは皆無だよね
かといって やっぱそこそこ可愛いから
ティッシュ配りが下手で
こっちの動きが損なわれても
そんなに不快な思いはしない
ただし女性が相手だったら
露骨に嫌な顔されちゃうタイプかな」

「混乱させたら
ちょっと危ない感じもあるし
こっちから別れを切り出そうもんなら
その時は平静を装ってるけど
寝込み襲われて
挙句は刺されそうな雰囲気さえある」

「それ 森田じゃん」

「だからなんだよ
よくぞ彼女をキャスティングしたなって
その時点ですでにこの映画
かなりのもんなんですよ」

「彼女の話だけで
終わっちゃいそうな勢いだね」

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「キャラの立ち上げ方
もっと言うなら ズラせ方ね
この部分に手抜きなんて微塵もないから
その後の各描写も
若干横滑りした「ズレた説得力」で
グイグイ攻めてくる
ただし」

「ん ただし」

「ただし
ここで多分あなたとズレちゃうんだけど」

「分かれちゃうんじゃなくって
ズレるんだね?」

「そう
森田の衝動殺人が
「いじめ」という枠にはめ込まれた途端
映画が一気に収縮してしまったんだよ
コンパクトになったというか
小ちゃくなったというか
いっしょかコレ まいいや」

「んー そっかぁ〜」

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「しかも その肝心のいじめのシーン
フラッシュバックで
何度か見せられるんだけど
それまで神経つかって
注意深く考察されてた筈の「ズレ」を
無効にするかのような
類型的画面の連鎖で
始まって終わっちゃうの
教室で的にされるのから始まり
運動場でウンコに顔をなすりつけられ
その横にポツンと座らされてる
和草(駒木根隆介)であったり
女子のいる前でパンツ下ろして
オナニーさせられてしまうなど
なんだこれ? 素人かよ!?
みたいな描写を延々見せられるんだけど

テレビドラマとして制作してんなら
あえて文句言わないけどさ
わざに出向いて金払って観る映画で
これされたらもぉ
ていうのもあるし
何より
それまで積み上げてきた緊張感は
一体なんだったんだろう
ってことになったのよ 私的には」

「今そうやって言われてみれば
確かにステレオタイプないじめだった
っていうのはあるなぁ」

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「いやさ やっぱ
「ディストラクション・ベイビーズ」
と比較しちゃうじゃんか
あっちは暴力 森田のは殺人で
そっからしてまったく異なるんだけど
何よりこの“態度”の差異ってさ
「非 意味」であるか否か
にかかってるんだよね
泰良の行動については
既に言ったんで省略するけど
つまりはあそこには
裕也とのコントラストによって
より鮮明度を増す
“強度”があるんだけど
今回の森田に至っては
「いじめ」に全面依存することによって
裕也側にあった「自我」しか
見えなくなってしまったってこと
つまりそこに“強度”なんて存在しようがない
楽しいから殺してんじゃない
1人殺ろうが2人殺ろうがもぉ一緒じゃん
という明らかな「計算」が
働いてしまってるってことね
金欲しさに銀行強盗やってんのと
何も変わんねぇわけさ」

「んー 言ってることは
何となくわかるんだけど・・・」

「いやいや
別に分かってもらわなくたっていいよ
そこに引っかかるかどうかだけの話だし」

「でも そこに引っかかるっかどうかって
この映画にとっては
けっこう重い意味として
のしかかってるような気もするなぁ」

「て思ってもらって
もう一度振り返ってもらえたなら
それはそれでいいと思うけど」

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「私はさ 実は
ラストで泣いちゃったんだよねぇ
「かあさん 麦茶2つ持ってきてー!」
で我慢できなくなって」

「俺も泣いた」

「・・・なんだアンタ!?」

「いやいや
そこはさ また別腹でさ」

「なに別腹って? 意味わかんねぇ」

「いやちゃうちゃう
わかるのよ ああいう落とし方を選択しなきゃ
ってとことかも
観に来てくれなきゃビジネスになんないしね
だから森田に「意味」を与えなきゃ
テレビっ子たちに通用しないし
だからよけいにさ
「ディストラクション・ベイビーズ」って
凄かったんだなぁって思うわけ
あのキャストみろよ
オールスター一歩手前みたいに揃えてて
内容があんなにもワイルドなんだぜ
逆にさ あの中身で
よくあの面子が集まってくれたよなって
日本映画まだまだイケるぜ! みたいなさ」

「それに関しては同感
でもアンタ 別腹からうまく逃げれた
なんて思うなよ」

「別腹ってのは
ちょっと違ってたかもしんない」

「認めるんだな?」

「50 × 50」

「アンタ完全にチョクり出してんな?」

「いやいや誤解しないで
手っ取り早く言うと
ディベートだと思ってくれればいい
手放しで称賛していいんですか?
っていう 心を鬼にしての
あえてのアンチスタンス」

「ほぉー なるへそ」

「その なるへそ って言うのも
けっこう引っかかりあるよね」

「なるへそ」

「なめてるよね 俺のこと」

「ぜんぜん」

「なめてるよね?」

「なめてません
そんなはずはありません」

「・・・まぁいいわ
この件については後でちゃんと話そう」

「わかりました」

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「・・・でさ 泣いたって話だけど
なんでかっていうと
やっぱ 上手いのよ吉田恵輔
暴力/殺人描写における
なんだかよく分かんない自信を感じるわけ

森田のある種「計算」によって
“強度”を損なっているとはいえ
自転車帰りのサラリーマンが
玄関開けてダイニングに目をやった
そのまんまの距離で
テーブルでエイリアンが飯食ってるみたいに
森田を捉えた目線カットであるとか
家主に気づいて面倒くさそうに立ち上がり
奥のキッチンから包丁を手に現れる森田の
予測通りであることによって
醸し出されるユーモアと
その後行われる残虐性の対比であるとか

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駅前で鼻で笑ったOL宅の
玄関ドアが開けられるや羽交い締めにし
血付きのナプキンに萎える描写であったり」

「あそこ 怖かったねぇ
一人暮らしの女性 あんなの見せられたら
しばらく帰れなくなるよ」

「俺もその日
玄関開ける時 一度振り返った」

「あんた 案外ヘタレだね」

「 ・・・ 」

「あ アンタまさか 逆か?
襲ってきてくれるの待ってるのか??」

「やめろ 話が深すぎる」

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「後で聞かせてもらうわ
そのどうしようもない 癖 を
あれはどうよ
和草と久美子(山田真歩)が共謀するけど
逆にやられちゃって
岡田×ユカのセックスシーンとの
カットバックとして
森田が女をバットでぶん殴り続けるってやつ」

「賛否出そうなシーンだけど
俺的にはスッゴい説得力あった
というのも あの女性
完全に失禁してるじゃん
あれをさ 私的にはさ
エクスタシーと解釈したわけ
あそこまでやられたら女の方は
死ぬって判ってくるわけじゃん
多分そこまで殴られたり
酷いことされたりしたことないのね
あくまで想像だけど
で 死ぬ直前に
やっとそういう目に
しかも究極的な形で遭うことが出来たと
つまり
ずっと覚醒しようのなかったドM魂が
ようやく見事に解放された瞬間なワケ」

「アンタだったら
そう考えててもこっちは理解に苦しまない」

「だろ?」

「褒めてんじゃないよ」

「だよな」

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「ユカのマンションの隣人の描き方も
なんかすっごいリアルで
ちょっと笑っちゃったんだけど」

「あれもいいよねぇ
ちょっと北野映画的リズムだったなぁ」

「命の尊さなんて
なーんにも考えてない銃弾が
左耳上をカスってるってわかった時の
男の顔ったらないわ
正直 ちょっと
ザマァみろ って思っちゃった
世の中甘く見んなよ って意味でね」

「あんた 完全にダークサイドだな」

「アンタにだけは言われたくなかった」

「ガムテぐるぐるで何にも見えないまま
顎を撃ち抜かれて ちょっとの間
何が起こったのか理解できてない感じも
実に秀逸だった
あの後すぐに額に食らうとは
夢にも思わなかったろうに
あぁ 拳銃で思い出した
警察官がサラリーマン宅へ
訪ねて来た時の描写は
やっぱちょっと弱いのよね
包丁を後ろに隠し持つじゃない
ああいう「計算」がやっぱちょっとねぇ」

「言われてみればそうだね
もっと大雑把に迎え入れた方が
迫力は増すかもしれない」

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「クライマックスの
岡田と森田の絡みも・・・」

「その前に
ユカが岡田のアパートに入ってから
破られた窓の穴からの風を受けて
不穏な気配に気づくってカット
あれは文句ないでしょ?」

「いや 悪いけどあるよ
俺だったらまず あの画だったら
風切り音は入れないね
だって 十分に髪の毛揺れてたから
その上にああいう音を足すなんて
余計なお世話でしかない」

「厳しいねぇー ブレッソンか!?」

シネマトグラフはかくあるべし」

「玄関開けた途端 殴り殺される死に様
道理で選ぶわけだ」

「出来れば相手は
長澤まさみでお願いします」

「ほんま死ね!」

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「クライマックスの話していい?」

「窓ぶち破って2人落ちてくるシーンね」

「あれもどうかと思うけど
なんか かったるくなかった?」

「正直 ちょっと思った
警察官2人到着してから
そのあと応援来ないし」

「なんだよねぇ
それまでの警察の動きも後手すぎて
ちょっと違和感あったのは
さすがに否めない
あれだけ人死んでて
警察官まで殺られて
マンションで銃声鳴ってたら
戒厳令敷かれたって不思議じゃないのに
厳戒態勢具合もはぐらかされてる
泰良が決して逮捕されない状況とここでは
全く異なる「意味」を孕んでるんだからね
実際 最後の最後じゃ
森田くん ポリに連れてかれてるし
なんのこっちゃ って感じですわ」

「逃げる時
死んだ車の持ち主の頭 轢いてったのは
すっごく良かったけど」

「あれはサイコー
「プライベート・ライアン」
オマハ・ビーチでのブラックさを
彷彿とさせてくれた」

「私ゃ弾の無くなった拳銃捨てるとこ
「マラソン マン」のラストシーン
思い出してしまった」

「あぁーそうだね
あの画面設計も見事だ」

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「いろいろアンタ言ってたけど
私は◯ですよこの作品
最初にも言った通り
笑って 怖がって 泣かせてくれて
大満足です」

「俺は その満足さには
あえて反撥させてもらいました
今でも意見は変わりません
というのも
この監督 相当な力量あるのは
わかりきってるから
次はもっと凄いのを って
期待を込めてるわけです
だから余計に厳しくなってしまう
この点は了解してもらいたい」

「わかりました」

「あまりに単純すぎて
見えず 聞こえない ことにより
それを「複雑さ」と
混同してしまいかねない事態のことを
「暴力」と呼ぶのなら
それはとどのつまり「映画」である
と言ってしまって
なんら支障ないのではないか
泰良と森田の決定的差異を思いつつ
そんな事もふと考えちゃいましたとさ
チャンチャン」

「 ・・・
今のは 別腹にしまっておきます」

 

anole0

 

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