ブリッジ・オブ・スパイ

2016/01/16 布施ラインシネマ
8/10

わかりやすく例えるなら
日本映画だと
せいぜい高そうな一戸建て住宅
ハリウッド大作なら
どデカいビルディング

この比較にならないレベルの中にも
同じくする役割分担があるわけで
現場監督を筆頭に
彼を支えるパートナー 設計者 監督助手
そして あらゆる部署の職人たち など
これらの連携がうまくいって初めて
いいモノが出来上がる
というベースが出来上がるわけですが

今作はまさに
その過程を想起させてくれるに足る
見事な出来栄えとなっており
舌を巻くとはまさにこれか と
最後の最後まで唸りっぱなしの142分でした

 

監督が新人の場合
現場は悪い意味で揺れ動くわけですね
これはあらゆるジャンルに
当てはまることかもしれませんし
ユニオン形態が
ハリウッドほど明確でない日本なら尚更
「いじめ」に近い現象を誘発する空気
になる可能性は高い と言えるかもしれません

バブル真っ只中のニッポン
「映画 好きです」
ただこれだけで 提案され 引き受けるという
タレントの監督業進出がブームになりました
広告代理店による仕掛けとも相まって
現場を見たこともないミュージシャンなどが
こぞって35ミリフィルムに触れ
現場スタッフから総スカンを食らってる中
深作欣二の都合で二つ返事で引き受けた北野武
当然そういう連中の一人であり
所詮は単なるお笑い芸人だと高を括られていたわけです
が 実は 真逆の人材であったのはもちろんの事
その資質たるや
彼を取り巻く誰よりも“映画”に愛されていた
というとんでもない事実を世界中に突きつけ
もしやこのことがキッカケなのではというタイミングで
日本経済の泡という泡は消えて無くなっていったのです

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ドリームワークスという巨大企業の創業者にして
今なお頂点でもある スピルバーグ という固有名

ユニオンによって保護された一流スタッフ達に囲まれながら
何をおいても譲れぬ箇所だけは決して妥協しないスタイル
を貫くことが可能な環境で
「宇宙戦争」の飛び抜けた VFXを見れば分かる通り
普通なら成し得ない画を生み出せる
ギネス級の腕前さえ自慢になどならぬと
さっさと次回作の詰めに入るとんでもない男の
今となっては業ともいうべき
無意識的なフォードの記憶との愛に満ち溢れた葛藤が
今回も至る所に散りばめられており
彼の作品はもう
映画を超えた何ものかに到達しようとしているのではないか
などと考え及ぶ硬直したこちらの態度を見透かすかのように

才能あるところにしか才能は集まらない
という方程式そのままに
今回も 天晴れ という他ない チームワークという名の
真の意味での職人芸(ドリームワーク)を堪能させてくれます

ジョン・ウィリアムズからのバトンタッチにもかかわらず
監督の意向を素直にキャッチし
ジョンの意思を正当に受け継いだ感のある
トーマス・ニューマンの仕事ぶりに関しては
別の項を設けて論じたい程なんですが
やはりここはまず
ヤヌス・カミンスキーのいっこうに衰えぬ画面設計です

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「ジャッジ 裁かれる判事」
なども もちろん素晴らしいんですが
何でしょう スピルバーグとタッグを組んだ際の
この水を得た魚感は
もぉただ観ているしか術がないんですね
多分こいつらデキてますよ  賭けましょうか?

強烈にそう感じざるを得ない箇所があるんですね
東ドイツで
新米の秘書官にトム・ハンクス扮するドノバンが
ハッタリを効かせた最終勧告を
伝言させようと目論むシーン
建物の入り口付近が完全に露出オーバーで
真っ白になっちゃってるんですよ
普通考えられるカメラマンの感覚として
到底許せない事態です
世界へ発信するハリウッド大作ですよ
でも 何一つ気にかけてない素振りどころか
とても面白がってる息遣いが画面に染み込んでくる
二人してキャッキャ騒いでんですよ腹立つ!
俺も仲間に入れろ!! 3Pだァー!!!

ま それはともかく
これ「未知との遭遇」ですよ
UFOのエントランスが口を開いた後の露出オーバー
ヴィルモス・ジグモンドダグラス・トランブル
向こうから歩いて来るんじゃないかと錯覚させもする
真っ向勝負の白さを 現場監督が要求し
女房役が快く引き受けたんですね

未知との遭遇

で 腑に落ちたわけです

いつもながら驚くべきキャスティング能力の賜物
マーク・ライランス扮するアベルが魅せる
地下鉄での逃走劇に続き
その彼を建て前上だけ弁護してくれと懇願された
ドノバン家での食卓シーン
「ジョーズ」に於ける
ブロディ家での家族構成を通過した後の
「未知との遭遇」によってより進化した
リチャード・ドレイファステリー・ガーという
このニアリー夫婦の子供たちまでもが出揃った途端の
「ピノキオ」行くのかどうなのか騒動を
否が応でも想起しないわけにはいかなかったモヤモヤ感が
ここではっきり確信へと変わったわけです

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すると あれもこれもが
あれよあれよと言う間に繋がってきたんですね

まず
格子デザインの大きな窓から差し込む外光によって
異様なほど照度の高い面会室を設えた演出が
なんのことはない 以後の前振りであったという
答を導き出し
「特別篇」では見られなかった艦内の一室は
もしやこんな風だったのかもしれない
などとあらぬ想像を膨らませ

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捕虜となったパワーズを認識するために呼ばれた
同志であるパイロットの登場に至っては
UFOへ乗り込むために呼び集められたメンバーの
整列風景が初めて画面に現れる瞬間 と言うよりも
マザーシップから次々解放され現れるパイロットの一人一人を
整然と貼られた多くの写真の中から照合する
あの呼吸そのものであり

あるいは
ついにやってきた橋上での交換シーン
ドノバンとアベルが交わす会話の間合いといい声量といい
「あなたでいい」と
急遽ラコーム博士に抜擢されたロイとのくだり
そのものであることに加え さらに
あろうことかここではサーチライトまで照らされ
未確認飛行物体を呼び込むための基地と化すために
一役買ってしまっている始末

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ここでパワーズと交換に
アベルじゃなくドノバンが向こうへ歩いて行き
残ったアベルがたった五音のメロディーを口ずさみながら
これ見よがしに手話を繰り広げようものなら
さらにその後 ドノバンが
抱擁なしでそのまま車へ突っ込まれてくれてたなら
私は即座に発狂して雄叫びあげながら
STAFF ONLYのドアこじ開けて
「ありがとうみんなぁ!
トリュフォーはきっと心の中にいるよォ!!
俺はここだよフランソワぁ!!!
お前はビョーキじゃないって言ってくれェーー!!!!」

と警察沙汰になるとこでしたが
交換のため歩いて行ったのが予定通りアベルで
ほんま心底今も安堵している次第です

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あぁそうそう
音楽について言い忘れてました
というのは 鳴ってることについてじゃなく
やはりというべきか
「劇場版 ガルパン」の時にも言った
鳴らさずにおくべき箇所を理解している聡明さ
例の新米秘書官経由で最終勧告を言い渡し
じぃっと黒電話が鳴るのを待っているシーンね
交渉無事成立と判明しても
音楽を一切鳴らさなかったんですよ
なり始めるのは次のシーンから それも粛粛と
凄くないですか?
ここハイライトシーンの一つなのに
そりゃ優秀なヤツいっくらでも寄ってくるわ

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アメリカ目線のプロパガンダだとか
そういうこと言われても
仕方のない箇所があるかもしれません
実話をベースにしてる分
多くの制約が付きまといます
ただ そんな中に於いても

混じり気のないドキュメンタリーは存在し得ないし
そのようなフィクションもまたあり得ない

という手垢まみれの呪文を大前提に
何をどのような形で提示すべきなのかを
コーエン兄弟とともに熟考を重ね

不屈が 何の役に立つのか?

この一点だけを目指して完成した作品を前に
そこに言語があるのに成立しない
というただならぬ恐怖を
字幕を一切取っ払ったことで成立させて魅せた
胸のすくセンスの一つさえも
戸棚の奥から取り出したことを悟られまいとする
そのはにかんだ口から

「作らねばならない映画がある」

などと 宿命という名の病理を発することで
イーストウッドの真の後継者たらんとするこの天才にこそ
ノーベル賞は与えられるべきであり
我々がその「橋渡し」をせねばならぬ時期が
そろそろ近づいて来てるのではないかと
考えさせられもした一本なのでした
 

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「ブリッジ・オブ・スパイ」への2件のフィードバック

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